前回に引き続き、『ソウルフルな経済学』エントリから、関連する話題をご紹介したいと思います。今回は、初回の引用記事の中で触れられていた「新しい経済成長理論」=「内生的成長理論」について。大阪大学の同僚でもある二神先生の著作の序文から引用させて頂きます。成長理論の発展を概観し、その勘所や代表的なモデルを非常に分かりやすく紹介した素晴らしい専門書です。





 第2次世界大戦後にロバート・ソローによって展開された経済成長モデルに始まり,1960年代には数多くの経済成長論の研究が行われた.しかし,1970年代に入り経済学者の関心は経済成長論から離れていった.多くの経済学者の関心が経済成長論に再び向けられるようになるのは1980年代後半になってからである.そのきっかけを作ったのは,ポール・ローマーが1986年にJournal of Political Economyに発表した論文 "Increasing Returns and Long-Run Growth" である.この論文以降,堰を切ったかのように数多くの研究が経済成長論の分野で行われるようになった.

 80年代後半以降の経済成長論は60年代の経済成長論の単なるリバイバルではない.では,60年代の経済成長論と80後半以降の経済成長論の違いはなんだろうか.それは次の3点にまとめることができるだろう.
 まず第1は,ミクロ的な視点の導入である.家計の効用最大化,企業の利潤動機に基づく研究開発などを小苦慮に入れた点である.
 第2は,外部性や公共財といった市場の失敗を生む要因と独占や独占的競争といった不完全競争の要因の導入である.したがって,80年代以降の経済成長論は,市場の失敗や不完全競争による厚生の損失を政府がその経済政策でいかにして改善できるかについて分析することを必須にした
 そして第3は,豊富なデータの蓄積に伴う経済成長に関する実証研究の発展である.

【関連文献】
内生的経済成長論〈1〉
R.J. バロー
九州大学出版会
2006-09


成長理論の代表的な専門教科書。記述が丁寧で数学補論も充実しており、かなり読みやすいです。大学院のコースワークでメインテキストや副読本として本書を使われた方もいらっしゃるのではないでしょうか? イチからじっくりと成長理論を勉強される方に特にオススメです!