1票の格差が示す「選挙が間違える」リスクの差

週刊ダイヤモンド』(2013年12月14日号「数字は語る」)

数字:4.77倍
解説:7月の参院選における1票の最大格差  
(議員1人当たりの有権者数が最小の鳥取県と最大の北海道との差)

 11月28日、広島高裁岡山支部が今年7月に行われた参院選を「違憲で無効」とする判決を出した。参院選に対する「無効」判決は今回が初めてとなる。同選挙においては、議員1人あたりの有権者数が最小の鳥取県と最大の北海道で4.77倍もの差が生じていた(無効判決が出た岡山県は3.27倍)。

 11月20日には同じく「1票の格差」を理由として、昨年の衆院選を「違憲状態」とする最高裁判決が下された。

 では、そもそもなぜ1票の格差は問題なのだろうか。選挙区ごとに1票の実質的な価値が異なるのは、「1人1票」という投票の大原則に反している、という議論はよく耳にする。確かに、1票の持つ重みの偏りは法の下の平等に反するため、減らしていく必要があるだろう。しかし、格差を解消することの意義は平等性だけにとどまらない。実は、ほかにも隠されたメリットが存在することをご存じだろうか。

 個人が選択を間違えることがあるように、集団における多数決も常に正しい答えを導くとは限らない。各有権者が一定の確率で判断(投票)を誤るのであれば、それを集計した投票結果も間違っている場合があるからだ。本来はベストであったはずの候補者が落選してしまう、というリスクが選挙には潜んでいる。

 この「選挙が間違える」リスクは、(各人が空気に流されずに自分の意思で投票する限り)有権者の数が増えるにつれて小さくなることが知られている。議員1人あたりの有権者数が少ない選挙区のほうが、多い選挙区よりも間違える危険性が高いのだ。また、同じ得票率であれば、有権者数が多い選挙区の議員のほうが「正しい」判断によって選ばれた可能性が高くなる。これは、同じ「当選」であっても、その正当性が選挙区によって異なり得ることを意味する。

 以上のように、1票の格差を無くすことは、有権者間の平等の実現に加えて、当選の正当性を選挙区間で均等化させることにもつながる。正しい民意をバランスよく選挙結果に反映させるために、格差の解消は欠かせない。


【関連図書】

一定の条件のもとで、選挙が間違えるリスクが有権者の数が増えるにつれて小さくなりゼロに収束する、という命題は(コンドルセの)「陪審定理」と呼ばれています。陪審定理を含め、集団の選択にまつわる様々な問題を、「社会選択理論」という切り口から紹介した名著として、慶應大学の坂井さんによる次の二冊があります。前者はやや専門向けですが、前提知識はほぼゼロで読むことができます。後者は新書とは思えないほど内容が充実しており、学問的知見を踏まえた著者の熱いメッセージが伝わる力作です。どちても激しくオススメ(個人的には『社会選択理論への招待』の方が好み)!




社会選択理論は「厚生経済学」という、人々の経済的な豊かさ・福祉について扱う分野で(その一部を)カバーされることも多いです。厚生経済学に関する優れた中級レベルの教科書として、以下の翻訳書がおすすめです。類書で触れられていない多くのトピックについて厳密かつ分かりやすく書かれています。(原書はべらぼうに高いので、とってもお買い得ですよ!)

厚生経済学と社会選択論
アラン・M. フェルドマン
シーエーピー出版
2009-04

 
このエントリーをはてなブックマークに追加 Share on Tumblr